
時間をかけて作った提案書を出したのに、相手の反応が薄いまま話が止まってしまいます。どこを直せばよいのか分からず、次の資料で説明を増やしたくなります。
相手が乗らないときにまず見直したいのは、文章の上手さよりも提案書の構成です。この文章では、判断に要る項目が埋まっているかを点検する書き方に絞ります。題材は、問い合わせの受付窓口を1か所にまとめる試行提案(合成例)です。結論から根拠までの5項目を相手が知りたい順に埋めて、提案書の骨子を一つ作り上げます。記入例をなぞりながら不足を点検し、話が止まったときに戻る先まで確かめられます。
- 提案書で先にそろえるのは、相手が判断に使う材料です。説得の言葉を足す前に、材料の欠けを探します。
- 書く順番は、結論、相手の現状・課題、ベネフィット(相手に起こる良い変化)、目的(なぜ今か)、根拠の5つが基本です。指定様式があるときは、その欄へ割り当てます。
- 結論は、何によって何がどう変わるのかを1〜3行、または1枚で書きます。
- 根拠の欄では、確認した事実、予測、未確認の3つを分けて書き分けてください。
- 効果の数値が未確認でも、試行の費用、期間、担当が決まっていれば、試行の判断依頼として出せます。そこも未定なら、情報収集の相談へ戻します。
書く前に整理するのは、相手の判断と材料
提案書を書き始める前に決めるのは、だれに、何を判断してもらう資料なのかという一点です。提案書とは、相手に何かを決めてもらうために、提案の中身と判断材料をまとめた資料を指します。相手と求める判断が決まると、書く項目も集める材料も絞られます。
整理するのは次の4つです。体裁を考えるのは、この4つが埋まったあとで構いません。
- 提案相手:読んで判断する人はだれか。説明を聞く人と、可否を決める人が違う場合は、両方を書き出します。
- 求める判断:相手に何を決めてほしいのか。導入の可否、試行の可否、見積もりの依頼、次の打ち合わせの設定など、1つに絞ります。
- 現状の確認方法:相手の困りごとをどこで確かめたのか。聞き取り、受け取った資料、自分の推測のどれなのかを分けておきます。
- 根拠資料の所在:数字や記録がどこにあるのか。手元にない場合は、だれに聞けば出てくるのかまで書きます。
つまずきやすいのは、求める判断を決めないまま資料を作り始める進め方です。読み終えた相手が何を決めればよいのか分からず、持ち帰りのまま止まりやすくなります。
セレブリックスが公開している提案術の解説でも、資料にする前の骨子の整理を勧めています(2026年10月15日確認)。その解説が扱うのは、相手の現状と理想の差を埋める方法です。先に整えるのは見た目ではなく、相手の判断に要る中身のほうです。
提案書は5項目の順で組み立てる
提案書の並びは、結論、相手の現状・課題、ベネフィット、目的(なぜ今か)、根拠の5項目を基本にします。相手が最初に知りたいのは結論で、背景や根拠はそのあとで確かめる情報です。相手の社内に指定様式がある場合は、その欄の並びを優先し、5項目をどの欄へ入れるかを決めてください。
各項目に何を書くのかを、1つずつ見ていきます。
- 結論:何によって、どう変わるのかという全体像を1〜3行、または1枚で示します。手段と、相手に起こる変化の2つがそろっていれば足ります。
- 相手の現状・課題:今どこで困っているのか、理想と現実の差はどこかを書きます。相手の認識と一致していることが条件で、ずれていれば残りの4項目も効きません。
- ベネフィット:提案が通ると、相手にどんな良い変化が起きるのかを書きます。機能や作業の名前ではなく、相手の作業や状態の変化で書くのが条件です。
- 目的(なぜ今か):この時期に進める理由だけを書く欄です。ベネフィットの言い直しになっていないかを、ここで確かめます。
- 根拠:実現できる、効果が見込めると言える材料を置く欄です。資料名、確認日、適用条件をそろえ、未確認のものは未確認と書きます。
順番に理由があるのは、読み手の迷いを減らすためです。Adobeが公開している提案書の解説でも、相手が知りたい内容を先に示すことを勧めています(2026年10月15日確認)。結論を最後へ回すと、相手は読みながら判断材料を探すことになります。
ベネフィットと根拠は、役割を分けて書くほうが読み取りやすくなります。シナプスが紹介している整理の仕方でも、便益と証拠は別の要素として並べます(2026年10月15日確認)。提案の特徴や優位性も、便益とは別の扱いです。同じ欄に並べる場合は、どれが相手に起こる変化で、どれがその裏付けなのかが分かるように書き分けてください。

受付窓口をまとめる提案の記入例
5項目がどう埋まるのかを、一つの合成例で通します。実在の会社や案件ではなく、説明のために作った例です。効果をまだ測っていない状態から書き始めます。
設定はこうです。問い合わせがメールと口頭の2つの経路で入り、受けた人の手元で処理が進むため、今どれが未対応なのかを一覧で見られません。提案するのは、共通の受付記録を1つ作り、11月10日から12月9日までの1か月だけ試すことです。判断してもらう相手として、問い合わせ対応をまとめている課の責任者を想定します。1か月の試行を始めてよいかを決めるのは、この責任者です。
受付記録に入れる欄は、受付日、依頼元、内容、担当、状態、受付経路の6つです。状態は、未対応、対応中、完了の3つから選びます。受け付けた時点では未対応、担当が手をつけたら対応中、依頼元へ回答したら完了へ変えます。
受付経路の欄に入るのは、メールか口頭のどちらかです。同じ依頼が両方の経路で届いたときは、先に受けた経路で1行だけ作ります。この欄があると、期間内の全行数と、経路が口頭の行数の両方を数えられます。提案日の11月4日を含め、この例に出てくる日付と期間は、説明のために置いた仮の値です。
5項目を埋めた骨子は、次のとおりです。差し替える箇所も同じ表に入れています。
相手に決めてほしいことは、1か月の試行を始めてよいかどうかの1点です。記録には今使っている表計算ソフトを使う前提なので、ソフトの追加購入やツールの利用料は発生しません。かわりに、記録表を作る手間と、受付のたびに記入・更新する時間がかかります。この作業時間は未確認のまま残し、試行の初日と最終日に聞き取ります。
担当は、記録表を作る提案者1人と、記入する受付担当2人の合わせて3人です。試行そのものに必要な費用、期間、担当はこの時点で決まっているため、試行の判断依頼として出せます。
未確認のまま残した3つの確認先は、次のとおりです。月あたりの受付件数は、試行期間内の受付記録の行数から数えます。口頭で入る割合は、受付経路の欄が口頭の行数を、同じ期間の全行数で割った値です。記入と更新にかかる時間は、受付担当の2人へ、試行の初日と最終日に聞き取ります。
12月10日には、試行の記録を見ながら相手と振り返ります。持っていくのは、1か月の受付件数、口頭で入った割合、記入と更新にかかる時間の3つで、どれも未確認として挙げた項目です。この3つは現状と作業の負担を知るための材料で、削減できた時間を示す数字ではありません。続けるかどうかは、状態が完了まで更新されずに残った件数も合わせて見て決めます。
1枚に収めるなら、結論を上の3行に置き、その下を4つの枠に分ける並べ方で十分です。求める判断と実行条件は、結論の3行目に1行で添えます。枠に入りきらない資料そのものは別紙へ回し、本体の根拠欄には資料名、確認日、どの条件の話かを1行で残してください。未確認の項目は、確認先と回答をもらう予定日を同じ1行に書きます。

根拠と実行条件は、事実・予測・未確認で分ける
根拠の欄で分けるのは、確認した事実、予測、未確認の3つです。3つを混ぜて書くと、相手はどこまで信じてよいのかを判断しにくく、全体を保留にしやすくなります。
書き分けの目安は、次の3つです。
- 確認した事実:自分か相手が実際に見た数字や記録。資料名と確認日を添えます。
- 予測:これから起きると見ている変化。計算の内訳か、そう考える理由を1行添えます。
- 未確認:まだ数えていない、または聞けていない項目。だれに何を聞けば分かるのかを書きます。
合成例では、削減できる時間の数値を書いていません。数えていないからです。見込みの削減率をここで置くと、試行の結果と食い違ったときに、どこが違ったのかの説明から始めることになります。数えていないと書いておけば、出た数字をそのまま報告できます。
実行条件として足すのは、費用、期間、担当、対象外、求める判断の5つです。合成例なら、費用はソフトの追加購入なし(記入と更新の作業時間は未確認)、期間は11月10日から12月9日まで、担当は提案者1人と受付担当2人の計3人です。対象外は電話の自動記録と有料ツールの導入で、求める判断は試行の可否になります。
提出前の点検は、次の6つで足ります。
- 結論に、手段と、相手に起こる変化の両方が入っているか。
- 現状・課題の各行を、確認済みか仮説かで読み分けられるか。
- ベネフィットが、機能や作業の名前ではなく、相手の作業や状態の変化になっているか。
- 目的の欄が、ベネフィットの言い直しではなく、今やる理由になっているか。
- 根拠の欄に、資料名と確認日、または未確認の確認先があるか。
- 数えていない数字を、実績として書いていないか。
費用、期間、担当のどれかが空いている場合は、試行や導入の判断を求める資料としては出しません。だれに何を聞けば埋まるのか、回答はいつもらえるのかを先に確かめてください。
求める段階によって、そろえる条件は変わります。情報収集の相談なら、現状・課題と聞きたいことが書けていれば出せます。試行の判断依頼なら、試行そのものの費用、期間、担当が決まっていることが条件で、試行で初めて分かる数字は未確認のままで構いません。本導入の承認を求めるなら、費用の見積もりと効果の測り方まで必要になります。
社内で費用や実施の承認を得る必要がある場合は、決裁規程や指定様式、比較案、撤退条件の準備が別に必要です。その段取りは稟議書の書き方で別に扱っています。提案書と稟議書では、読む相手も求める判断も違うことが多くあります。兼ねられるかどうかは、指定様式や社内のルールを確かめてから決めてください。
提案が進まないときの戻し方
話が止まったときに増やすのは、説明ではなく確認です。相手の反応ごとに、最初に確かめる項目の候補を決めておきます。次の6つの症状は、説明を書き足すよりも、戻って確かめるほうが片づきやすくなります。
どの症状でも、やらないほうがよいことは共通です。装飾を増やす、ページを足す、根拠のない削減率を置く、架空の期限を作る、の4つになります。増やすのは熱量より、相手が判断に使う材料のほうです。
効果の数値を求められたときは、測っていないと正直に書きます。そのうえで、何をどう測るのか、いつ結果が出るのかを添えます。実施の承認ではなく、検証の相談または試行の判断依頼として扱ってもらう形です。合成例なら、12月10日に受付件数、口頭で入った割合、記入と更新にかかる時間の3つを持って、もう一度話す段取りになります。
課題の受け止めがずれている場合だけは、順番が変わります。資料を直す前に、相手の現状をもう一度聞き取る時間を取ってください。この聞き取りを飛ばすと、整った資料が別の課題へ向かって走り出します。

まずは自分の案件で、結論の1行から埋める
最初に書くのは、結論の1行です。何によって、相手の何がどう変わるのかを1文にできれば、残りの4項目は相手に確かめながら埋められます。
結論が1文にならないときは、まず提案相手と求める判断が決まっているかを確かめてください。この2つがはっきりすると、結論の1文も形になりやすくなります。
今日できるのは、通したい提案を1つ選び、提案相手と求める判断を書き出すところまでです。そこから現状・課題の欄に、確認済みと仮説の印を付けていけば、だれに何を聞きに行けばよいかが見えてきます。
Q&A
Q1. 相手の社内に提案書の指定様式がある場合は、5項目をどう扱えばよいですか。
様式の項目名と並びを優先し、5項目をその欄へ割り当てます。資料そのものを別紙へ回す場合も、本体には資料名、確認日、未確認の確認先を1行で残してください。様式に根拠の欄がないときは、現状・課題か目的の欄の末尾へ括弧書きで添えるなど、置き場所を先に決めます。
Q2. 説明を聞く担当者と、可否を決める人が違うときは、結論をどちらに合わせますか。
可否を決める人に合わせて書きます。担当者には、相手の現状・課題が合っているかの確認役と、社内で回すときの注意点を聞く役をお願いします。1つの資料へ両方の関心を詰め込むと、結論が読み取りにくくなることがあります。
Q3. 根拠に出せるものが社外の公開情報しかないときは、そのまま載せてよいですか。
載せて構いませんが、提供元、確認日、どの条件の話かを必ず添えます。他社の数値を自社や相手の見込みとして書き写すと、裏付けではなく推測になります。自社に当てはまるかどうかは未確認として残し、確認する相手を書き添えてください。

