
申込の受付と契約書の差し替え、入金の確認が重なると、どの案件がどこで止まっているか分からなくなります。
不動産の取引は、1件のなかで相手も期限も枝分かれしていきます。顧客の確認や引き渡しの連絡が担当者の記憶と個人のメールに残ると、休んだ日に誰も答えられません。ここでは、1案件を申込から保管まで1行で追える進行表を作ります。1枚へ集めるのは、いまの工程、待っている相手、次の担当と期限、最新版の置き場所です。読み終えたら、いま動いている案件を1つ選んで書き始められます。
- 契約まわりの事務は件数より枝分かれの多さで増えるため、1案件を1行で追える進行表にまとめるのが近道です。
- 進行表の列は、案件ID、工程、入力資料、成果物、担当、期限、最新版の保存先、確認待ち理由の8つから始めます。
- 工程は申込、確認、契約、入金、引き渡し、保管の6つに区切り、区切りごとに成果物と次の担当を決めておきます。
- 物件情報と顧客情報は正本を1か所に決め、契約書類は版と承認の状態をファイル名に残します。個人のメールに正本を置きません。
- 法令や契約条件の判断は事務だけで確定せず、社内で決めた権限のある人へ戻す経路を先に作ります。
契約まわりの事務は、1案件の進行表へまとめる
契約まわりの事務を整える近道は、1案件を1行で追える進行表を作ることです。進行表とは、案件ごとに工程と担当と期限を書き込む一覧表のことです。表計算ソフトで作れます。目指すのは、その案件がいまどの工程にいて、なぜ止まっていて、次に誰が動くのかを1枚で見える状態です。
不動産会社の事務は幅が広く、職種の一覧として並べても、いま動いている1案件がどこまで進んだかは分かりません。困りごとが出るのは、その一覧の外です。申込が入った1件について、どの資料が届き、どの書類が最新で、誰の返事を待っているのか。ここが見えないと、電話が鳴るたびに担当者を探すことになります。
そこで扱うのは、業務の一覧づくりではなく1案件の段取りです。1件分の形が決まれば、案件が増えても同じ行を足すだけで済みます。
契約まわりの事務が増える4つの枝分かれ
1つ目は、相手の数です。1件の取引に、買う側と売る側、金融機関、管理会社、司法書士など複数の相手が並びます。相手が増えるほど、連絡の往復と確認の期限が積み上がります。
2つ目は、書類の入れ替わりです。申込の書類、条件の確認資料、契約書、精算の明細と、段階ごとに主役の書類が変わります。前の段階の書類も手元に残るため、どれが最新なのか見分けにくくなりがちです。
3つ目は、期限の決まり方です。融資の審査結果、引き渡しの希望日、登記の日程は、自社の都合だけでは動きません。動かせない日が1つ決まると、その手前の作業の締切が連鎖して決まります。
4つ目は、法令に基づく手続きと、日程調整といった事務作業が、同じ案件の上に並ぶことです。この2つを同じ感覚で流すと、事務が判断してよい範囲があいまいになりがちです。枝分かれを1枚に集めたい理由は、ここにもあります。
案件進行表に置く8つの列
列は、案件を探すときと、止まりを見つけるときに使うものだけに絞ります。増やすほど記入が止まるので、まずは8つから始めるのがおすすめです。
- 案件ID:案件ごとに付ける短い番号です。受付の年と連番を組み合わせる形は一例で、拠点や部門をまたいでも重複しない社内ルールに合わせます。個人情報を必要以上に含めない形が安全です。
- 工程:申込、確認、契約、入金、引き渡し、保管の6つから、いま動いている1つを選びます。
- 入力資料:その工程を始めるために要る資料です。そろっていないと着手できないものを書きます。
- 成果物:その工程が終わったときに残る書類やデータです。ここが空欄なら、工程はまだ終わっていません。
- 担当:動かす人の名前を1人書きます。部署名で止めると、連絡先が一巡して戻ってきがちです。
- 期限:日付で入れます。相手の都合で動く日には、仮である旨を添えておくと安全です。
- 最新版の保存先:正本を置いたフォルダ名とファイル名です。進行表から書類へ1回でたどれます。
- 確認待ち理由:止まっているときだけ、誰に何をいつまで待っているかを1行で書きます。
8つのうち外せないのは、最新版の保存先と確認待ち理由の2つです。前者がないと書類を探し直すことになり、後者がないと止まっている理由が担当者の記憶にしか残りません。日々の担当と期限の追い方そのものに迷いがあるなら、タスク管理の型をまとめた記事もあわせて読んでみてください。

申込から保管まで、6つの工程で追う
工程は6つです。区切りごとに、何が届いたら着手するのか、何ができたら終わりなのかを先に決めておきます。
- 申込:申込の書類と本人確認の資料を受け取ります。ここで案件IDを決め、案件フォルダと進行表の行を同時に作るのが出発点です。
- 確認:顧客の情報と物件の情報を突き合わせます。登記や管理に関する資料、融資の見通しなど、条件に関わる点は確認待ち理由の欄へ書き出す対象です。
- 契約:契約書類を準備し、説明を経て締結へ進みます。事務が追うのは、版の状態、日程、署名や押印の回収状況です。
- 入金:手付金や残代金、手数料の入金を確認します。照合の鍵になるのは、入金日、金額、振込の名義の3つです。
- 引き渡し:鍵と設備の確認、費用の精算、登記の日程を合わせます。関係者が増える工程なので、窓口は1人に固定しておくと連絡が迷いません。
- 保管:契約書類の正本と関連資料を保存します。保存の期間や方法は法令や社内の規程で変わるため、確認先を先に決めておきます。

抜けやすいのは1番目の後半です。案件IDを決める前に資料のやり取りが始まると、後からフォルダと行をひもづけ直す手間が生まれます。申込を受けたその場で、IDとフォルダと進行表の行を同時に作るのが確実です。
進行表を1案件分だけ埋めた例
形が見えたほうが早いので、1件だけ埋めた例を置きます。会社名、人名、物件の情報、日付は説明のために作ったもので、実在の取引ではありません。
この1行があれば、問い合わせにその場で答えられる状態です。今どこまで進んだかは工程の欄、なぜ止まっているかは確認待ち理由の欄、次に誰が動くかは担当の欄で分かります。3つが同じ行に並んでいるからです。
使える形になったかどうかは、次の4つで確かめられます。
- 現在の工程、止まっている理由、次の担当が、1行で読み取れます。
- 契約書類の最新版と承認前の版を、ファイル名だけで見分けられる状態です。
- 案件ID、フォルダ名、入金の照合メモに、同じ番号が入っています。
- 資格や責任が要る判断について、事務だけで確定しない戻し先を書いてあります。
もう一歩確かめたいときは、その案件に関わっていない人へ進行表を渡してみてください。今どの工程か、誰が、いつまでに何をするのか。この3つを読むだけで答えられたら、進行表として使える形になっています。答えに詰まった欄があれば、そこが書き方のそろっていない列です。
物件情報・顧客情報・契約書類は、正本と版を決める
正本とは、写しが何枚あっても、これが正しい1つと決めた保存版のことです。案件で扱う情報は、物件、顧客、契約書類の3つに分け、それぞれの正本を先に決めます。
物件情報は、図面、登記に関する資料、管理に関する書類など、出どころが別々です。条件を聞かれたときにどれを見て答えるのかを1つ決め、進行表の保存先からそこへたどれる形にします。ただし、出どころの違う資料が複数あるときは、正本と決めたほうをそのまま優先しないでください。発行元、更新日、承認の状況を確かめ、権限のある担当者に今有効な資料を決めてもらいます。そのうえで正本の表示と進行表の保存先を書き換えます。
顧客情報でつまずくのは、表記の揺れです。旧字体の姓、法人名の株式会社を前に付けるか後ろに付けるか、同じ名字の家族が1つの案件に出てくることもあります。氏名や住所は、申込の書類だけで正しいと決めず、会社で定めた本人確認の手順と確認資料に照らして確かめます。表記が食い違うときは、事務の側で直さずに担当者へ確認してください。進行表は、確認が済んだ表記へそろえます。
契約書類では、版と承認の状態をファイル名へ残す形が分かりやすいです。社内案はv1、相手の確認後はv2、承認済みはv3_承認済という形で、番号と状態を並べます。承認済みのファイルを上書きしないでください。差し替えが出たら新しい番号で保存し、進行表の保存先を書き換えます。どの版で合意したのかを、後から示せる状態にしておくためです。
もう1つ決めておきたいのが、個人のメールに正本を置かないことです。添付で届いた資料は案件フォルダへ移し、メールには保存先を1行残します。担当が休んだ日でも、進行表から同じ書類へたどり着けます。契約書そのものの保存や期限の追い方は、契約書管理の記事もあわせて確認してみてください。
法令や契約条件の判断は、権限のある人へ戻す
不動産の取引には、法令で手続きや担当が定められている場面があります。重要事項の説明や、契約のときに交付する書面の扱いがその例です。内容や運用は改正で変わるため、国土交通省の不動産取引に関するお知らせで現行の案内を確かめてください。
事務の側で進められるのは、日程の調整、資料の受け渡し、記入漏れの確認、進行表の更新あたりです。一方で、契約の条件、書面の内容、交付の方法、本人確認の可否といった判断は、事務だけで確定させません。
戻し先は会社ごとに決めます。宅地建物取引士の資格を持つ担当者、契約の責任者、顧問の専門家など、社内の権限分担に合わせて割り振る形です。誰が何を決めるかは会社の体制と法令の要件で変わるので、役職名だけで一律に決めつけないでください。
進行表での書き方は簡単です。確認待ち理由の欄へ、誰に、何を、いつまでに確認するのかを1行で書きます。戻したこと自体が記録に残るので、案件が止まっているのか、返事を待っているのかを取り違えずに済みます。
進行表が止まる4つの入口と、その場での戻し方
運用が崩れる入口は、だいたい4つです。どれも、気づいた時点から戻せる話です。
- 案件フォルダと個人のメールに情報が分かれた:正本を案件フォルダへ集め、メールの側には保存先を書いた1行だけ残します。過去分は、いま動いている案件から先に移すので十分です。
- 物件名だけで管理して案件が混ざった:案件IDを付け直し、フォルダ名、ファイル名、入金の照合メモへ同じ番号を入れます。番号でそろえば、名前が似ていても混ざりません。
- 期限は入っているのに担当が空欄:期限だけの行は、誰も動かさないまま日付が過ぎます。何が届いたら着手するのかという受け渡しの条件とセットで、担当を1人決めてください。
- 法令や契約条件の判断を、手順の例で代わりにした:解説や社内の慣習だけで決めると、改正や個別の条件が抜けます。確認待ち理由へ戻し先を書き、権限のある人の確認を挟みます。
全案件を一度に移し替える必要はありません。今日動いている案件から進行表へ載せ、終わった案件は保管の工程で順に整えていく形で足ります。ただし、法令で保存が必要な書類は、移し替えを待つ間もそのまま保存しておいてください。

まとめ:いま動いている1案件に、案件IDと次の担当・期限を入れる
契約まわりの事務が多く感じられるのは、件数ではなく1案件のなかの枝分かれが多いからです。相手も、書類も、期限も、段階ごとに増えていきます。この枝分かれを1枚に集めるのが、進行表の役目です。
やることを並べ直します。案件ID、工程、入力資料、成果物、担当、期限、最新版の保存先、確認待ち理由の8列を用意します。工程の区切りは、申込、確認、契約、入金、引き渡し、保管の6つです。物件と顧客と契約書類は正本を決め、契約書類だけは版と承認の状態をファイル名に残します。法令や契約条件の判断は、社内で決めた権限のある人へ戻します。
最初の一歩は、1案件だけで十分です。いま動いている案件を1つ選び、案件IDを付けて、工程と次の担当と期限の3つを書いてみてください。その1行が、次に電話が鳴ったときの答えになります。
Q&A
Q1. 進行表は何で作るのがよいですか。
並べ替えと絞り込みができれば、表計算ソフトで足ります。案件1件を1行という形だけ崩さず、列は8つから始めてください。不動産の管理システムを使う場合も、最新版の保存先と確認待ち理由に当たる欄を持てるかを先に見ておくと、進行表が二重になりません。
Q2. 賃貸の仲介でも同じ6工程で使えますか。
区切りの名前を自社の流れへ読み替えれば使えます。売買の残代金に当たるのは初期費用の入金、引き渡しは鍵の引き渡しです。工程の数を増やすより、区切りごとに成果物と次の担当が決まっているかを優先してください。
Q3. 案件IDは何桁にすればよいですか。
桁数の決まりはありません。拠点や部門をまたいでも1件に見分けられ、途中で付け方が変わらない形なら足ります。個人情報を必要以上に含めない点だけ押さえ、社内で決めたルールに合わせてください。


